浅草とフグレン。
それは想像もしない組み合わせだった。さらに、もう一つ、予想外なことにカフェバーは、上階のホテルエントランスを呈したような路面にある。(※注1)日本スタイルのカプセルホテルとコラボレーションしたフグレン浅草は、風神雷神門の地では、未見のカルチャーとなる。イノベーティブな人たちは、固定観念で物事を選択しない。テック界で有名だったコーヒーショップも、華々しさや話題性より、空気感を大事にして下町を選んだ。その場所もいまや、コーヒーの街として紹介されている。(※注1:カフェにホテルレセプションはない)
スカンジナビアで生まれた、コーヒー、カクテル、ファニチャーというコンセプトの「フグレン」、この組み合わせはコーヒーシーン以外でも珍しい。独自のこだわりを持つ共同オーナーたちが目指したもの。それは、たくさんの目に触れるロケーションより、価値をわかる人がわざわざ集まる場所にすること。海外コラムニストの"飛行機に乗ってでも飲みに行く価値がある"という強力な触れ込みと共に、2012年に初上陸したフグレン東京。そこから約7年の月日を迎え、オープンしたのがカプセルホテルの1階と2階だ。
場外馬券場、花やしき、もんじゃ焼き店、昔ながらの居酒屋。レトロな日本スタイルに浅草寺を中心とした大衆劇場で栄える下町。休日には観光客とインバウンドで込み合う路地に、誰も見たことのないもの。ナインアワーズの麓で、アジサシが羽を下ろしている。
【 台東区 / 浅草 カフェ 】9h ninehours 浅草( ナインアワーズ )とFUGLEN ASAKUSA( フグレンアサクサ )
フグレンの特徴は、ノルウェースタイルの「コーヒー」「カクテル」「ビンテージファニチャー」の3つをトータルコンセプトで展開する。北欧ビンテージ家具に触れながら、白昼はノルディックローストのコーヒー、夜はバーテンダーのカクテル、ノルウェーライフスタイルを昼夜問わずに味わえる。
フグレンのインテリア
2階フロアはソファー席のみで、階下カフェ・バーの喧騒から離れられるゆったりとした空間。 フグレンに設置されている調度品は、購入可能な北欧ビンテージ家具になっている。
オーナーの一人、ぺぺ・トルセン氏とフグレンデザイナーの福田和貴子氏によってデザインされた同店。1963当時のノルウェーの時代背景を踏襲しつつ、下町・浅草の雰囲気に合わせた、懐かしさとモダンを融合させた店内になっている。
下町・浅草に、ナインアワーズとフグレンの共存
9h ninehours 浅草( ナインアワーズ )は、日本発祥のカプセルホテルを再定義、新しい宿泊ビジネスをデザインする企業として脚光を浴びている。ただ、同ホテルが見つけたのは、浅草でも奥まっている猥雑な場所だった。前例のない都市型の宿泊形態を提唱するホテルが、協業を依頼したのがフグレンだった。古いものから新しいものを生み出すこと、浅草という歴史がある立地、ホテルのデザイン、そこにフグレンオーナーは興味を抱き、共存できると確信した。
少なくないコーヒーショップの中から、フグレンを選んだ理由にナインアワーズ代表は、唯一のオリジナリティがあるからだと語る。ノルウェージャンスタイルのカフェ・バー、日本発祥のカプセルホテル、下町・浅草の地域性でこそ成り立つ、見たことのないもの。
コーヒーメニューのエアロプレス
Aeropress:¥520
北欧のバリスタチャンピオンが広めたエアロプレス。今では、各国で世界大会に向けたエアロプレスの競技が開催されている。日本でもエアロプレスのコーヒーは珍しくなくなったが、気軽に飲めるかと言えば、まだ東京でも、店を選ばなければいけない。ノルディックローストと言われる浅煎りのコーヒーを味わうなら、おすすめの楽しみ方だ。
ブラウンチーズ(ブルンオスト)が添えられたノルウェージャンワッフル
Norwegian Waffle with Brown Cheese, Sour Cream, Berry Jam:¥600
ノルウェーのワッフルは、薄くて大きい。そこにbrunost(ブラウンチーズ)を載せるのがオーソドックスなトッピング。写真はクリームチーズとサワークリームも添えられている。北欧では、各家庭にワッフル専用のホットプレートがあるくらい、親しまれている食べ物だ。フードからもノルウェーの日常を味わえる。
営業時間は毎朝7:00から。
深夜営業は水、木が~01:00まで、金土は~02:00まで。夜といえばアルコールも定番だが、旅の夜ふかしに美味しいコーヒーが飲めるのもありがたい。
フグレンのコーヒー豆
フグレンのコーヒーパッケージに登場する印象的なキャラクター、これはJackoという。1963年から22年間、フグレンのオスロで飼われていたオウムがモチーフになっている。ノルウェージャンコミックを描くアーティストで、イラストレーターのBendik Kaltenborn (ベンディク・カルテンボーン) の作品、北欧らしいトーンが印象的だ。
V60を使ったハンドドリップ
フグレンの取り扱うコーヒー豆には特徴があり、ノルウェーの生豆卸業者から仕入れる。一般には想像し難いコーヒーの生豆だが、果物と同様で質の高いものほど、風味豊かなカップになる。生産者と持続的な関係を築き、どこでどのように作られたかを明確にされた高品質なコーヒー豆。それを、自家焙煎したのが、フグレンのコーヒーだ。日常的に何気なく飲まれることが多いコーヒー、だからこそ少し特別なお店で、その味わいと価値に意識を向けて味わってみては。
そして、フグレン浅草のプアオーバーはHARIOV60でサーブされる。ハウスブリューにV60を使っているなら、購入したコーヒー豆のレシピを聞いてみるのも良いだろう。
フグレンとナインアワーズ、新しい浅草の幕が上がる。
浅草に夜の帳が降りたいま、ジャズアンサンブルが奏でられた。
スカンジナビア流のカクテルとスイングするブルーノート、ガラス扉の向こうから滲むアンサンブルは、フグレン浅草が始めた。地域に縁のあるシンガーを呼んだ「Live Jazz & Cocktails」が定期開催されている。古くは江戸時代から町人文化と芸能が醸成され、現代に至るまで独自の風情を形成してきた日本の町。
伝統が色濃く残る土地に、違う成り立ちを持つ文化が積み重なる。揺るぎないカルチャーを持つから、互いに歴史と風習を重ねていくことができるのか。奇抜な演出にもみえるホテルとカフェ・バーのコラボレーションは、浅草にゆかりを持つ人たちにどのように映るのだろう。古いものから、新しいものへ。変化の風を捉えて、渡り鳥は異国に新たな文化を折り重ねる。
ノルウェースタイルと一緒に、浅草という風情も味わいたくなります。