土と葉肉の芸術。
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コシューーーッ、コシューーーッ
海に潜ったときの歯切れの悪い酸素ボンベのような呼吸音がする噴霧器を使って水を与える店主。むき出しのコンクリートに簡素で必要最低限と見てとれる置き場所や台座は、さまざまな形容をした植物たちのためだろう。インテリアとして空間を飾るためのモノたちが飾られたここは非日常的で、葉肉が生み出す細やかな稜線に囲まれると、戸惑いながらもいじらしく感じる。
確かな圧力で最小限かつ広域に撒かれた水はキラキラと葉脈を光らせていた。陽射しがビルの窓から程よく入りこむ昼下がりに僕は初めて店主と言葉を交わした。
多肉生活
初めて見たわけではなかったけど、初めて選ぶために見るとではまったく違うモノサシに気付かされる。何度やってもできない友達に業を煮やして奪い取ったコントローラー、結局は僕も同じところでミスを繰り返す。当事者になってみてやっとその世界に入りこむことができるのか、まずはこの世界での基準を確認していった。範疇にも思わない植物をみて驚かないように、ゆっくりと丹念に見回す。
気づけばここには(その目線に立たなければ)知らなかった事ばかりが並んでいて、コントローラーを奪った僕は真剣なフリをしながら、呆然とする心境を自分からも隠そうとする過去を思い出す。後ろでは店主がキィッとセロハンテープを台座についたカッターで切り取って、用意していた値札に小気味よく貼り付けていることが伺えた。
どうやら今は店内を買うアテもなく見回る客を効率よく促すよりはやることがあるらしい。僕は許される限りはと、もう何周も店内を歩き回っていた。
個性的な桃色の爪
そのうち途方もないくらいの植物たちの多様性に呆れそうになったころ、一つの単純なルールを持っている個体に気づく。もちろんルールに則っているとはいえ”決められた不規則”の中、その個体はとてもエキゾチックで不確かな生き方を表現していた。このフロアだけでおそらく一つのまとまったそれのレポートが書けるのではと、錯覚するくらい比べたゆえにピンと張った琴線を弾くことができた。
初めての多肉と軽口
同じ種でも並べると表情が全く違うバラのような造形たち。着せ替え人形のようにプランターを取っ替え引っ替えして満足いく表情を探す。お気に入りの”桃太郎”を見つけたからといってそこで終わりじゃなかった。そいつにあう丁度良い大きさの棲み家を探すのも根気がいった。広がった花弁のような爪の集合体に最も良いものをあてがう頃には、店主の値札を貼り付ける作業も終わっていた。
丁寧に刈り込まれた側頭部にパーマーをかけたトップ、量販店では買えない眼鏡をかけたお店のようなこだわりを感じるスタイル。革の腰袋には必要最低限のハサミや道具が丁寧に揃えられていた。小気味よく僕の注文した観葉植物を植え替え、位置や角度を小さな庭を作るように調整しザラザラと肥料を詰めていく。その間に購入者の知識に合わせて無理のない情報量で育て方や手入れの仕方を教わった。
とても満足いく買い物とお店に出会ったのだけど、ちょっとした後日談も。こだわりある店主とお喋りをして口が少し軽くなった僕は、見たこともないフシギダネみたいな(ゲームのキャラクターだ)大きな株を指差してこれは何かと聞いた。オランダから持ち帰った花のようでとても綺麗な花が咲くそうだ。うっかり花の名前を忘れてしまって探してみたら、きっと店主の中でも印象に残っていたようだ。
アンビエントなインストミュージックがかかった素敵なショップでした。多肉に目覚めました...。